「理念」、「ミッション」、「パーパス」・・・
仕事や経営で使われている言葉っていろいろありますよね。
皆さんはこれらの言葉にしっくりきていますか?
「特に問題はない」「全然大丈夫」「何が問題かわからない」という方は、問題ないと思われます。
一方、「どうも気になる…」「何か引っかかる…」「どこか釈然としない…」という方も少なからずいらっしゃいます。
今日はそういった方に向けてお話ししたいと思います。
皆が同じ意味合いで使っているわけではない
例えば「理念」。
この言葉は一般的に、「何らかの事業や計画などの根底にある根本的な考え方」を指しています。
辞書の意味としても、
【理念】
物事のあるべき状態についての基本的な考え。「教育の-」
出典:三省堂 大辞林 第三版
とあります。
これだけを見れば、特に問題を感じないかもしれません。
しかし実際には、皆が同じような意味合いでこの言葉を使っているわけではないですよね。
例えば「創業の理念」という使われ方の場合、
ある人は「こういう背景で、こういう動機で創業しました」という意味合いで言っているかもしれません。
別のある人は「こういう強い想いがあって、こういう目的で創業しました」という意味合いで言っているかもしれません。
また別のある人は「創業に際しての、少なくともこういう部分だけは堅く守っていく志」の意味合いで、肝に銘ずる観点で使っているかもしれません。
「書き方(形式、フォーマット)」も、「項目の数」や「文章の長さ」、あるいは「内容の抽象度」も様々で、違う人から見たら「これは理念じゃなくてポリシーじゃないの?」とか「これはモットーじゃない?」と感じたりすることもあるでしょう。
「経営理念」や「企業理念」といった使われ方の場合でも、人や事業体によって切り口や意図していることが様々なため、「理念」という言葉をぼんやりとさせてしまいます。
加えて「理念」というのは、一般に抽象度が高い内容のものです。
「いつまでに何をどうする」という細かい約束事とは違いますので、「理念」は実際に守られているかを判断するという観点でも評価が難しいところがあります。
「理念」という言葉が掴みどころのないものになっているのは、そういった背景があるのではないでしょうか。
(※ 「理念」とは?)
言葉はともかく大切にしたいことがある
さて、「じゃあ理念は不要なのか?」と言うと、それは「要る人には要る」、「要らない人には要らない」ということになるでしょう。
「理念が必要かどうか?」は「理念という言葉の掴みどころのなさ」とは別問題で、「理念という言葉に掴みどころがなくても、理念は必要」というケースもあるでしょうし、「理念という言葉を掴めていても、理念は不要」というケースもあると思います。
いろんなケースがある中でも、「理念という言葉を掴めている」という人や「理念は不要」という人は、特に問題を感じていないと思われますので、「理念という言葉は掴みどころがないけれど、理念は必要」という人にフォーカスしたいと思います。
「理念」というのは、大局的な流れだったり、取り組み全体を串刺しにして貫いている土台の考え方だったりするわけですが、掴みどころがなくても共通していることがあります。
それは「大切にしたいことがある」ということです。
あえて何かを明文化して意志表明しているのは、そうする必要性があるからですよね。
その必要性というのは、「事業や計画などに取り組んでいく中で、根本的にこういうところから逸脱しては困る、あるいはこういう意識が薄れては困る」と、内面から込み上げる気持ちの表れとも言えます。
別の動機で体面的に作っているケースもよく見受けられますが、本質的には何らかの強い思いがあって、それを明文化し、意志表明しているわけです。
特にそういう思いがないのであれば本質的には掲げる必要もないでしょうし、そんなものを掲げなくても逸脱したり薄れたりしないと思っていれば、わざわざ掲げたりしないでしょう。
ここまでは「理念」についてお話してきましたが、「ミッション」にしても「パーパス」にしても、他の何にしても、本質的にはまず「意志表明するだけの何らかの強い思いがあるか?」が根幹だと思います。
その上で、「あえて明文化し、表明する必要があると感じているか?」の問題になると思われます。
本質(内容を実践すること)が第一義ではないか?
そもそも強い思いや明文化の必要性がないのであれば、言葉に掴みどころがあってもなくても問題ではありません。
一方、思いや必要性はあるんだけれど「理念」や「ミッション」、「パーパス」などの言葉が引っかかっている、言葉に掴みどころがなくて釈然としない、内容がぼやけてしまって気になるなど、そういうことであれば、それらの言葉にこだわらなくてもよいのではないでしょうか?
体面上のこだわりが相当強い場合を除いて、本質的には「内部で取り組みに携わる人たちが認識し、要所要所で意識できること」が第一義だと思われますので、表明する内容に合った言葉を素直につけてもよいと思います。
例えば、「背景」や「目的」とか、「そもそもの動機」とか、「目指すところ」とか、「根底にある想い」とか、…
あるいは「わが社が大切にしていること」や、「わが社が重きをおいていること」でもよいと思います。内容もスッと入ってきますから。
「そうは言っても、よく使われている言葉の方がいいような気もするし…」という方は、セカンドベストの発想で自問してみて下さい。
「世間でよく使われている言葉を使って、自分たちは好ましい方向に向かいそうか?」
「もし意図がぼやけてしまうのなら、誰のためにもならないのではないか?」
「理念やミッション、パーパスといった言葉を使わなかったら、どんな不都合があるのか?」
「最も避けたいのは、本質(=内容を実践すること)が台無しになることではないか?」
「本質(=内容を実践すること)を第一義に考えるのが、取り得る選択肢の中でのベストではないか?」…etc.
このような問いをぶつけた上で葛藤の末に行き着いた回答ならば、いずれにしてもある程度納得して進んでいけるのではないでしょうか。
意志がないなら初めから掲げない
最後に。
今日は、あえて何かを明文化して意志表明するのは、本質的に何らかの強い思いがあるというお話をしました。
その観点からすると、お飾りのようなものや、美辞麗句を並べ立てたりしているものはちょっと的外れだと思います。
的外れどころか、もしかしたら悪影響があるかもしれません。
特に「価値組路線✕中小企業」では。
働く人たちが白けてしまうような選択は、個人的にはあまりして欲しくないですね。
掲げるならば、しっかりやっていく意志のあるものを。
しっかりやっていく意志がないならば、初めから掲げない。
そういうシンプルな選択によって、働く人たちは経営者の真意を感じることができるのではないでしょうか。