今日は「人材開発」と「組織開発」について、要となる部分に焦点を絞ってお話しします。
机上で理解できても実践で使いにくかったり、平板な知識をあれもこれもと入れてしまって、本質が見えなくなるのを避けるためです。
あくまで第一義としては、『本質を見失わなわず、日常で活かしやすいこと』としています。
正しく知識を理解するというより、イメージを掴むことを、今日のゴールとしていただければと思います。
(※人材開発部という部署があるような大企業で、その部署のスタッフが仕事をする場面では、また違った捉え方があるかもしれません。あくまで中小企業の経営者の方が、全体最適の視点で、状況判断や意思決定をする際に活用することを想定しています。)
話の流れとしては、まず「人材育成」と「人材開発」を対比して、「人材開発」のイメージを掴んでいきます。
その後、その延長として「組織開発」のイメージを掴んでいきます。
基本(大きく2つのアプローチ)
人が成果を出せるように何らかの形で働きかけるアプローチには、大きく分けて2つあります。
「個人の力」に頼る直接的アプローチと、「個人の力」に頼らない間接的アプローチの2つで、前者が「人材育成」、後者が「人材開発」です。
「人材育成」とは、一言で言うと「身につけてもらうこと」です。
研修や講習、アドバイスやトレーニングなど、手段は何にせよ、それによって「知識」「技能」「考え方」などを「身につけてもらうこと」、それが「人材育成」のイメージです。
こちらは、身につける本人の意思や努力が土台となりますので、「個人の力」に頼るアプローチになります。
「育成」という言葉でなく「教育」や「指導」という言葉を使っていても、やっていることが「身につけてもらうこと」であれば、本質的には同じものと捉えてよいと思います。
一方、「人材開発」とは、一言で言うと「条件をととのえること」です。
本人の意思や努力に頼って何かを「身につけてもらう」のではなく、「すでに持っている力を発揮しやすいように条件をととのえること」で、解決を図ろうとするアプローチです。
こちらは基本的に、「個人の力」に頼らないでできることを考えます。
例えば「職場の通路(作業動線)に物が置いてあって通行の妨げになっている」という状況で、「邪魔になっている物をどけて通りやすくすること」は、このアプローチです。
「通りにくいままの状況でも効率よく仕事ができる力を身につけてもらう」のであれば前者のアプローチですが、通る人を何とかしようとするのではなく、「進行に影響を及ぼしている物をどける」のであればこちらのアプローチでしょう。
2つのアプローチのイメージは掴めたでしょうか。
このくらいでよければ大丈夫そうですよね。
「なんだ、それだけ?」という感じもするでしょうが、基本はこれだけでよいと思います。
とうよりも、現実の場面では応用がどんどん出てきますので、このくらいにしておかないと、ややこしくて使えなくなってしまいます。
応用
別の例で考えてみます。数日前に、私が自宅で体験した出来事です。
家族がいない時にセロテープを使おうと思って探したのですが、あると思われる場所に見当たりません。5分ほど探して、ようやく見つかりました。(誰かが使った時に、使った場所に置いたようです。)
見つかるまでの間は、やろうと思っていたことがちょっと中断されましたし、少しですが気力と体力も使いました。
この場合、「探さなくてもいいように、いつも定位置にある環境にする」アプローチが、「人材開発」の観点です。
使おうと思った時にすぐに手に取れれば、時間のロスも、気力や体力のロスも省けます。それによって、本来やるべきことに時間やエネルギーを注ぐことができます。
一方ここで、「いつもどこにあるか分からない環境のままで、何とかやっていく力を身につけてもらう」アプローチをとるなら、それは「人材育成」の観点になります。
「見つけやすい環境」ではなく、「何とかやっていく力」の方に頼る選択です。
ここで注意が必要なのですが、意図的に「見つけにくい環境のままで、何とかやっていく力を身につけてもらおう」とは思わないかもしれません。
しかし、たとえ意図していなくても、「いつも定位置にある環境にする」アプローチをとらなかった場合には、結果として「見つけにくい環境のままでも何とかやっていく力」に頼る形になっています。
この表裏一体の形が、注目すべきポイントです。
我々は日々のいろんな出来事に対して、いつも理想的な選択をとれる訳ではありません。
限られた時間やエネルギーの中で優先課題から対応していくと、追いつかない部分も少なからず出てきます。
それはある程度仕方がないことでしょう。
ただ、それはそれとして、そういうことが起きていることを認識しているかどうかは、とても重要だと思います。
「個人の力」に頼ることを意図しているわけではなくても、「環境整備」のアプローチを取り切れていない場面では、結果的に「個人の力」に頼る形になっている、という認識です。
この認識があると、現状としては手一杯だとしても、できる限り「個人の力」に頼ることを減らして、少しずつでも「環境整備」をしていこうという意識を持ち続けることはできます。
組織開発とは
「組織開発」は、基本的には「人材開発」が積み重なったものと考えるとよいと思います。
「人材開発」&「人材開発」&「人材開発」&「人材開発」&・・・というイメージです。
「人材開発」は「条件をととのえること」でしたから、「組織開発」は「重層的に条件をととのえること」になります。
「条件をととのえる」&「条件をととのえる」&「条件をととのえる」&「条件をととのえる」&・・・というイメージですね。
一つ目の例(「職場の通路に物が置いてあって、通行の妨げになっている」という状況)で、「邪魔になっている物をどけて通りやすくすること」は、「人材開発」でもあり、「組織開発」でもあります。
通行する人が一人であれば「人材開発」とも言えるでしょうし、通行する人が組織の中でそれなりにいるのであれば、結果的に「組織開発」にもなっています。
人材開発も組織開発も…
「組織開発」のイメージについて簡単にお話ししたところで、日々の実践で意識するポイントについて触れたいと思います。
「組織開発」は「重層的に条件をととのえること」と今お話ししたばかりですが、日々の業務の中で、一人の人の成果(能力発揮)に影響を及ぼす条件も一つではありません。
ということは、「人材開発」の観点で考えても、いろんな場面でどんどん整備を進めていくと、結局「重層的に条件をととのえること」になってきます。
つまり、日々の実用においては、「人材開発」にせよ「組織開発」にせよ、結局やることは「重層的に条件をととのえること」に行き着きます。
組織開発の観点で応用
二つ目の例(「セロテープが見当たらず探したことで、少し本筋のことが中断し、気力と体力のロスにもなった」という状況)で、これを組織として考えて、「探さなくてもいいように、いつも定位置にある環境にする」ことを目指すとします。
実際にそれを成り立たせようとしていくと、少なからず「個々の力」に頼ることも必要になってきます。
つまり、組織の誰かが「使おうと思った時にすぐに手に取れるよう、いつも定位置にある環境にする」ためには、組織の個々のスタッフに「身につけてもらうこと」が出てくるということです。
置き場所を決めても、知ってもらって、認識してもらって、継続的に習慣的に実践してもらわなければ、目指す状態にはなりません。
「いつも定位置にある環境にする」ためには、まず「定位置を知ってもらうこと」から始める必要があります。
この時点でもう「個々の力」に頼る形となります。
ただ、その同じ「定位置を知ってもらう」プロセスでも、「少しでも個々の力に頼ることを軽減できないだろうか?」と考えたら、例えば「ラベルにセロテープと書いて定位置に貼っておく」という工夫が出てくるかもしれません。
そうすればラベルがない場合よりも定位置を覚える負担は減りますし、「セロテープ」と書いてあったら、そこに戻そうという意識も自然と喚起されます。
このように、「個々の力に頼る部分」と「個々の力に頼らない部分」は、組織全体のレベルではらせん状に絡み合ってきます。
どちらかだけで何とかできるわけではありません。どちらも不可欠です。
しかし一方で、先ほどお話したように、「個々の力」に頼ることを意図していなくても「環境整備」が追いついていない場面では、結果的に「個々の力」に頼る形になっている現実もあります。
そして、無意識でいると、どうしても「個々の力に頼る部分」が大きくなる傾向があります。
いろんな場面で「環境整備」が持ち越しになって、どんどん「個々の負担」が大きく(多く)なっていく傾向です。
こうした傾向を考慮すると、「個々の力に頼ることを少しでも軽減できないだろうか?」という意識をどれだけ持てているかが、人や組織のパフォーマンス(=能力発揮や成果)の急所になってくると思われます。
また、「環境整備」といっても、仕事も経営も何十年と続いていく訳ですから、一気にIT化とかデジタル化とか、そういう瞬間的で華々しい観点ばかりではなく、日々の何気ない負担を少しでも軽減しようとする「地味な取り組み」の意識が重要になります。
まとめ
人が成果を出せるように働きかけるアプローチは、大きく2つ
「個人の力」に頼る直接的アプローチと、「個人の力」に頼らない間接的アプローチの2つ。
「個人の力」に頼るのが「人材育成」で、「個人の力」に頼らないのが「人材開発」。
「人材育成」とは、一言で言うと「身につけてもらうこと」
研修や講習、アドバイスやトレーニングなど、手段は何にせよ、「知識」「技能」「考え方」などを「身につけてもらうこと」。
「人材開発」とは、一言で言うと「条件をととのえること」
本人の意思や努力に頼って何かを「身につけてもらう」のではなく、
「すでに持っている力を発揮しやすいように条件をととのえること」で、解決を図ろうとするアプローチ。
「人材開発」「組織開発」は、「重層的に条件をととのえること」に行き着く
「人材開発」の観点で考えても、いろんな場面でどんどん整備を進めていくと、結局「重層的に条件をととのえること」になる。
日々の実用においては、「人材開発」にせよ「組織開発」にせよ、結局やることは「重層的に条件をととのえること」に行き着く。
人や組織のパフォーマンスの急所も、「重層的に条件をととのえること」に行き着く
①「個々の力」に頼る度合いを軽減しようとする日常の意識が、急所である。
② 瞬間的で華々しい観点ばかりではなく、日々の「地味な取り組み」の意識が重要である。
今日はイメージを掴みやすくするために、目に見える物や物理的な妨げを例にお話ししましたが、実際は目に見えないものや心理的な妨げなども、成果(能力発揮)に影響を及ぼす要素として絡み合っています。
とは言うものの、基本的な考え方も意識することも同じです。ポイントとなるのは、やはり「重層的に条件をととのえること」です。
(※「人材開発」と「組織開発」について私なりの考えを長々とお話ししましたが、皆さんそれぞれが力を発揮したり、成果を出したりできることが一番大事ですから、ピンと来ないようでしたら読み捨ててくださいね。ピンと来ないものは、だいたい役に立たないと思います。感覚を大切にしてください。)