作家の五木寛之さんと、医師の帯津良一さんの対談本より。

健康法は「これ一つ」ではダメ ――― はじめに 
                         五木寛之

世の中には、
「これ一つで十分」
と、いうようないい方が結構あるものだ。
たとえば、
「玄米さえ食べていれば―――」
とか、
「背骨の歪ゆがみをまっすぐに直すことで、万病が治る」
だとか、
「ありがとうの言葉さえ忘れなければ、すべてうまくいく」
とか、これ一つを大事にすれば、なにもかも解決するような話が少なくない。
 

 私は、これは怪あやしい、と思っている。世の中というものは、そんなに簡単ではない。人間も、すこぶる複雑にできている。何十、いや、何百何千もの要素が入り組んで因果関係を織りなしているのだから、「これ一つ」で、なにもかもがうまくいくわけがない。
(中略)
 私たちは「これ一つ」という、わかりやすい考え方に走るべきではないと思う。本書『健康問答』のなかでの私の疑問に、名医である帯津さんが、ときどき「どちらともいえない」とおっしゃるときがあって、とても信頼できる感じがする。
 私たちが「これ一つ」に心を惹ひかれるのは、心身が疲れているときに多い。つい弱気になってしまうと、スパッと断定的で簡単明快ないい方に、すがりたくなるのが人間である。
(中略)
 世の中のこと、「これ一つ」ではダメなのだ、と覚悟するしかない、というのが私のようやくたどりついた結論である。

出典:五木寛之・帯津良一(2007)『健康問答』 平凡社 p.33

 

私はこれまで、健康関連の本をかなり読んできました。

以前(20年以上前)に、「生活習慣病予防指導士」という民間資格を取った絡みで、毎年それなりに勉強を続ける必要があったからです。

 

一回読んで終わりという本も多かったですが、五木寛之さんと帯津良一さんの対談本『健康問答』は、くり返し読む部類に入っていました。

特に、冒頭でご紹介した「はじめに」は、この本の中で一番読み返してきた部分です。

 

理由は、他の多くのことにも通ずるな~と感じたからです。

仕事や経営、あるいは自分の専門分野においても。

 

世の中というものは、そんなに簡単ではない。人間も、すこぶる複雑にできている。何十、いや、何百何千もの要素が入り組んで因果関係を織りなしているのだから、「これ一つ」で、なにもかもがうまくいくわけがない。

 

世の中には、「これ一つでうまくいく」といった売り文句が無数にあります。

そういったものをどう捉えるかは、個々人によって違うと思います。

 

私はこの本に共感する思いを持っていたので、ときどき読み返すことで自分のスタンスを再確認してきました。

「これ一つ」ではない、と。

 

自分の専門分野(人材開発・組織開発)においてもそうですし、

専門外の領域においても、ひとつの指針としてきました。

 

私たちが「これ一つ」に心を惹ひかれるのは、心身がつかれているときに多い。つい弱気になってしまうと、スパッと断定的で簡単明快ないい方に、すがりたくなるのが人間である。

 

私もご多分に漏れず、弱気になってしまうとそういう傾向があります。

そういうときに、この本のこの部分を思い出して読み返してきました。

どちらかというと健康に関してよりも、仕事絡みでふと思い出すことが多かったです。

 

世の中のこと、「これ一つ」ではダメなのだ、と覚悟するしかない、というのが私のようやくたどりついた結論である。

 

五木寛之さんの言っていることが正しい、と言いたいわけではありません。

もともと私も同じ感覚を持っていて、この本でその思いを再認識してきたというお話です。

 

私たちは日ごろ、無意識でいると、「これ一つでうまくいく」といった情報に飲まれがちです。

それを求めているならよいのですが、本意でない場合には情報源を見直した方がよいかもしれません。

近い感覚の方に参考となれば幸いです。